日に日に進化しているスイーツの世界。作る人だけでなく、食べる人の舌や感性も磨かれている中、美味しく楽しんで食べてもらうためにどうしたらいいのか、と考え続ける人たちがいる。
今回インタビューした平田早苗さんは、お菓子作りのプロフェッショナルと共に長年商品開発などに携っている女性。作り手と消費者を繋ぐ「スイーツプランナー 」という新しい立ち位置を確立した平田さんにお話を伺いました。
“スイーツプランナー”という仕事
スイーツプランナー とは、どんな仕事ですか?
製菓メーカーやケーキ屋、チョコレート屋さんなど、お菓子を製造・販売している企業に向け、企画の提案やコンサルティングをしています。
お菓子を作るプロの方々に向けた仕事ですね。
そうです。みなさん、プロとしてそれぞれに悩みや問題意識を抱えているので、それを客観的な視点で様々な角度から一緒に考え、サポートしていく仕事です。
クライアントにより仕事の内容は様々で多岐に渡るのですが、主には商品開発や販売促進などのマーケティングを行ったり、店舗のディレクションをしたり。その時々によってクライアントの悩みや課題は違うので、そこに向き合って自分に何ができるか、状況を客観的にみて改善方法を提案しています。
私の場合、お菓子に特化したアドバイス、コンサルティングがしたかったので、「スイーツプランナー 」という肩書きを自分で作りました。
では、それまで「スイーツプランナー」 という仕事は一般的でなかったのでしょうか。
そうですね。大きな企業にはたいてい商品開発をするチームがありますし、小規模のお店ではオーナーや職人さんがしている仕事のため、それを独立して行なっていたり、訪ねて行ってアドバイスをするなど外部から関わる人は当時ほとんどいなかったんです。類似した業務としてフードコーディネーターとして活躍されている方はいましたが、スイーツに特化している人が少なかったと思います。
どうしてスイーツプランナー を始めようと思ったのですか?
大学卒業後に就職したケーキ屋さんで、スイーツの商品企画に携わった時、プランナーという仕事の可能性を感じたからでしょうか。
私は小さい頃からお菓子を作るのが好きでした。大学では、管理栄養士の資格を取るため栄養学を選択したんですが、「やっぱりお菓子の仕事がしたい!」とケーキ屋でアルバイトを始め、そのままそこに就職しました。何店舗かを運営しているその会社には商品企画部があり、私は店舗での販売を経て商品企画部へ配属されたんです。
2000年に、その会社でスティックタイプのチーズケーキを開発しました。これがすごくヒットしました。でも、企画段階では、職人さんから「細長く切っただけのものなんてケーキじゃない」と猛反対され、社内で結構ぶつかり合ったんです。
私は商品企画部として、お客様がどんなシチュエーションで食べるのか、「シーン」を考えて企画したので、大切に製造に携わる職人さんとは視点が違ったんです。最初はそれを理解してもらえなかったんでしょうね。
その時に、ケーキ作りをずっと学んできたプロの職人さんの他にも、面白いアイデアを出したり新しい商品を考える「プランナー」という存在がいてもいいんじゃないかなと思ったんです。
そして、お客様の希望やアイデア、「こんなのがあったらいいのに」を形にすることができる「商品開発」という仕事を、とても夢のある仕事だなと感じるようになりました。
スイーツの商品開発が独立した仕事として成り立つのかどうか、当時は自分でも半信半疑な部分があったので、自分なりにトライしてみようと思って。その後会社を辞め、小さい自分の工房を開き、お客様の希望に沿ったお菓子を作るなど、アイデアを形にしてみることにしました。
平田さんがご自身でお菓子を作っていたんですか?
そうです。会社に勤めながら、フランス菓子のスクールに行って学んでいたので、工房では、毎日毎日自分でお菓子を作って販売していました。カフェやカタログギフト向けなど、卸販売をメインに活動をしていました。
続けていくうちに、だんだんとお客様からも「こんなイベントに合うもの作れる?」「こんな商品を卸してもらえるかな?」と相談も受けるようになってきて。
工房を始めて5年経った頃、「スイーツの商品開発」という仕事にようやく確信が持てました。そして、2005年にスイーツプランナーとして起業しました。
クライアントと共に経験を積んでいく
実際スイーツプランナー として仕事を始めてみて、どう感じていますか?
そうですね。起業して16年を超え、ものすごくたくさんのことを経験してきましたが、ここまでやって来られたのはクライアントのおかげだと本当に実感しています。
パティシエと組んでお菓子を考えることもあれば、OEM工場の方と一緒に商品開発をしたり。通販や駅ナカの催事を企画したり、お店を丸ごとプロデュースするブランディングに携わったことも。とにかく仕事の内容は幅広いと思います。起業当初では考えられなかった仕事を今ではするようになりました。
それもやはり、クライアントが「こんなことできないかな?」と投げかけてくれたから。相談された仕事は、基本断らず、どうやったらできるかを考え続けたので、経験の幅が広がって行ったんです。
自分だけでは難しいことや出来ない事は、他の専門家をチームに入れたりもしました。最初から何でもできた訳ではなく、考えてトライし続けてきたことで、たくさんの経験と知識が蓄積されて今に繋がっています。
スイーツプランナーの楽しいところは?
どんな仕事も楽しさがあり、毎回達成感を感じます。もちろん、最初から順調に進むわけでないので、1度目のプレゼンに通らずやり直すなんてことは何度もあり、落ち込むことも時にはあります。でも、クライアントに喜んでもらったり、消費者に喜んでもらう様子を見ると嬉しく、強いやりがいを感じているんです。
これは、私のスタイルかもしれませんが、仕事をしているとよく「お医者さんのカウンセリングみたい」だと言われることがあるんです。
基本的にクライアントは悩みがあって相談に来ます。それは売上げだったり、既存の商品についてだったり。その際、徹底的にクライアントに寄り添って、問題がどこにあるのかを探します。サービスなのか、商品なのか、製造工程でコストがかかり過ぎているのか。
問題を分解して糸口を見つけ、それに合わせた処方箋を作る。ここではお菓子だけに留まらず、経営的な部分やスタッフの様子など多岐に渡って見ていきます。もちろん最初は、レシピの開発や商品開発だけをしていたんですよ。でも、いろいろな問題に関わらせてもらい、今は経営面まで相談に乗ることが多くあります。