命のきらめきが愛おしい。デイサービスを経営するひと 浦めぐみ

自分で始めたきっかけ。

ーめぐみさんは昔から介護の仕事をしていたのですか?

そうなんです。もう20年くらい?福祉業界にいます。学生時代は中学校の体育の先生になろうかと思っていたんですけどね。体育の先生って空きが少なく、なるのが難しくて。先生が無理なら、と選んだのが介護の仕事だったんです。

私が育った家庭は、ひいおばあちゃん、おじいちゃん、おばあちゃんがいて、4世代が同じ家に住む大家族。だから、高齢者の方と過ごすことはとても当たり前で、介護の仕事は自分にとってすごく自然なものでした。途中、結婚して住む場所も変わり、子育てに集中していた時期もありましたが、県をまたいで色んな施設で働くことで地域での違いを知り、自分でもできるんじゃないかな?と思うようになりました。

ー本格的に開業をしようと考えたきっかけは?

小さい頃から、いつか社長になるかなとは思っていました笑。
直接のきっかけは、嫁いだ先にあったんです。結婚し、長崎に移り住んで7年くらい経った頃、義父が亡くなりました。生前、自動車整備工場を経営していたので、亡くなった時、家族はその工場をそのまま引き受けてくれる人を探していたんですよ。でも、なかなかいい人が見つからなくって。そんな時、私がその場所を利用して介護施設を開こうって思ったんです。

長年介護の世界で働いてきましたが、なかなか自分の感覚が叶う場所に巡り会えずにいました。「もっと自由で、もっと楽しい場所があってもいいんじゃないか」という思いはいつも心にあって、それを今、ここでやる時だと思いました。

それまで、職場では立ち上げに関わることも多かったので、感覚的には開所までの流れは分かっていたので、自然と「できる」と思いました。もちろん、大変なことも多かった記憶はあるのですが、結局、起業を決めてから開所するまで半年しかかからなかったんです。本当にあっという間でした。

立ち上げ時のスタッフは、子どもの幼稚園時代のママ友や婦人会で知り合った人など、全て私の周りにいる人たちで揃ったんです。介護経験者はもちろん、栄養士や看護師の方など、私を含め、介護事業所を開くのに必要な資格を持っている人がちゃん揃って。

開業から8年経ち、人を雇おうと思ってもなかなか来ないことが分かった今、あの時、必要な人材が集まったのは本当に奇跡だったんだなと思います。もう一度やれと言われたら、もう無理だろうなって思います。

一番大変だったのはどんな部分ですか?

やはり資金面ですかね。立ち上げの流れは分かっていても、資金繰りをすることは初めてでしたから。借入をし、設備投資するのには勇気がいります。
それまでも働いてはいましたが、普通の主婦ですからね。銀行に行っても信用がないんです。借り入れの相談に行っても、最初は話にもならなかったのですよ。でも親切な行員さんに出会ったことが転機となり、借り入れの仕方について色々教えてもらうことができました。周囲の協力を得ながら国の基準を1つ1つクリアし、開所までの書類を整えていきました。

開所後は、スタッフにちゃんと給料を払えるのか不安で眠れない日々が続きました。なんとか毎月スタッフの皆さんにお支払いすることができていますが、「今月どうしよう…」と思う瞬間は沢山ありました。
今でも「ああ!今月もお給料を払えた~!」と言えることがすごく嬉しくて。この喜びは経営者の醍醐味だな、と思います。

売上を上げるためにどうしたらいいのか、と考えていた頃もありましたが、売上にフォーカスしてしまうと、目線が他人に向いて、スタッフや利用者さんとギクシャクしてしまいがちなんですよね。スタッフにも利用者さんにも居心地がいい場所を目指して、「こんなに楽しい場所なんだから、人が来ないわけがない!」と思うようになりました。

経営者になって思うこと

ー経営者として努力したり、意識してきたことはありますか?

そうですね。自分の内面をより深く見つめることは、経営にもすごく活きていると思います。内観の度合いが売上に反映していると感じるほど。

私、もともとスポ根気質なので笑、かつては苦しさにも耐えて頑張ることが美徳でしたし、それを無意識に他人にも求めていた面もあったと思うのです。でも、今は、自分を無理させたり、相手に何かを求めてコントロールしようとは思いません。

こんな風に自分の内面に大きな変化が起こり始めたのは、母を亡くした頃からだと思います。おじいちゃん・おばあちゃん好きなのは持って生まれた好みだと思うのですが、起業し、少しくらい無理してでも頑張ってきた背景には「母に認められ、褒められたい」という思いからがあったから。

母の存在は、私にとって大きく、それまでのバイタリティーは母からもらったものでもあるのではないかと思います。母を亡くし、仕事への気持ちにも変化を感じた時、そのことを自覚しました。

それに気づいてからは視野が広がり始め、いろんな人に会いに行くように。
自分について内観を深めましたし、自分の意識と目の前の現実の繋がりについても追求しました。自分も、仕事も、お金も、全てがエネルギーで、全て自分が創っているものだということが段々わかってきた時、これまで「問題」だと思っていたものすら自分が創っていたものだと実感しました。

それ以来、自分が「どうなりたいか」「どうありたいか」だけにフォーカスするようになり、望まない思考をしている自分に気づいてはそれを捨て、「頑張ること」「耐えること」も手放して行きました。

長年、現場には「私がいなくちゃ」と思っていましたが、それも手放して、少しづつスタッフに全てを任せる日を増やしていきました。今ではスタッフに「社長、今日は入らなくていいですよ」と言われるまでに笑。

業績も年々上がり、近年ようやく、自分の活動に相対する評価をもらえるようになってきたと思います。それでも、お年寄りが大好きなので、会いに行ってハグしたり、一緒にお昼寝したり、お話しして笑う会う時間は今でも私にとって大事な時間であることに変わりありません。

ーこれからやってみたいことはありますか?

そうですね。今の事業が安定してきたので、別の分野のこともやってみたいな、と思うようになりました。母への思いを解き放つことができた今、自分が持って生まれた才能や可能性はまだまだあるんじゃないかと思っているんです。

子どもに関することをしたらどうかという話もありますし、いろんな場所に行くような仕事にも少し憧れますね。今までは、同じ場所に居続ける仕事をしていたので。

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浦 恵

(うら・めぐみ)
株式会社grand・jete 代表取締役社長。長崎県でデイサービス事業、居宅介護支援事業、訪問介護支援ステーション事業を展開。
https://care-net.biz/42/enju.soyokaze/