女性を描き続けていく。絵を描く人 ハラダエリコ

古美術商の世界で見えたこと

私が働いていた古美術商は江戸時代から近代の日本書画を扱っていました。ガラス越しでなく、実物をダイレクトでみられるので、筆の運び方や、当時は極彩色だったであろう配色を感じられ勉強になりました。

巨匠と呼ばれる人達が、絵に生活を注ぐ壮絶さにも感嘆しました。伊藤若冲は、絵を描きたいがために実家の家督の権利を弟に譲り、山にこもって鶏を200羽も飼い、鶏を描き続けた人です。対象に向き合う姿勢が凄まじすぎてとても真似できないですよ。そして、そういう絵にはエゴが感じられないことに気づいたんです。
ただひたすらに、そこにいる鶏に真摯に向き合って向き合って描きあげられた世界。でも見る人はそこにありありと若冲を感じてしまうんですよね。エゴを消した世界で対象に向き合って出来上がる 独自の世界があることを古美術から学びました。

絵から感じるエネルギー

先ほど話した若冲もそうですが、長く残る絵には、絵から放たれるエネルギーの強さを感じるんです。かつてゴッホの絵を生でみた時にも、絵の持つエネルギーに圧倒されて涙が止まらない体験をしました。子どもの視線が純粋にこちらを見つめるように、絵が私を見つめてくる感じ。
それは生命のエネルギーにように感じます。ゴッホの感情や、ゴッホの「描きたい」という純粋なエネルギーが絵から溢れてくる。ゴッホが絵に命を吹き込み、その生命力が絵から放たれている感じ。

ゴッホ自身の生命エネルギーを動。絵の中に描かれた対象が放つエネルギーが静と例えると、二つが合わさって絵の全体的なエネルギーとなる。私からすると、ゴッホは動的:静的=8:2のようなイメージ。

私が好きな江戸時代の巨匠たちはどちらかというと逆で作家自身の動的なエネルギーが2。しかも感情の表現ではなく、技術で自分を表現する感じ。対象から放たれる静的なエネルギーが8の割合。
どちらも合わせれば同じくらい大きなエネルギーを放っていますが、放つエネルギーの質が違う感じです。そんな風に絵からのエネルギーを感じていると、割合はどうであれ、どれだけ純粋に「絵を描きたい」と思って描いているかが大事なんだと感じるんです。

自己表現と「うまく描くこと」は違う。

私が絵を描く時にも、「エゴを出さないこと」には意識をしています。私にとってのエゴって、うまく描こう、よく見せよう、といった、他人の目を意識した外側に向かった気持ちのことです。
自分でも「いい感じで描けた!」と誰かの視線を意識した瞬間に引いた線が全てを台無しにしてしまうことがあるんです。だから最後まで意識が「誰か目線」にならないように注意しています。

これがハラダエリコの描く絵です!素敵でしょ?かっこいいでしょ?となるのはダサい。見ている方もそういう押し付けってわかっちゃいますよね。
絵を通して自分を表現したい気持ちはありますが、見た人がそれをどう思うかをコントロールしないように。描いた後、それをどう見るかは見る人に委ねてしまおうといった感じです。

西荻窪コッポドヂーア 抽象画ラフ案

じゃあ、何に向かって描いているかといえば、自分の内側に流れる感情をあらわしたいのだと思います。ハラダエリコってこんな人間です、と自分を理解して欲しいのではなく、ハラダエリコの内側にはこんな感情があります、という感じ。

感情や心の風景を絵で表現するのが絵描き。音楽やダンス、書くことや何かを作ることで感情や心を表現することって、割と誰もが経験していると思います。「歌いたい」と思った時に一人でカラオケで歌って気持ちいい!というのと同じで。私の表現は描くことなので、純粋に「描きたい」という気持ちに従って生きたいんです。

こうやって話してみると、私はどちらかというと自分はゴッホのように自分の感情を表現したい人なのだと感じました。日本画のような静的なエネルギーは自分にないものとして憧れていたけど、自分自身は動的なエネルギーを強く持っている人なんだって。

自分の感情をそのままに表現するような絵を描くことは怖いと思っていました。でもそれは自分に向き合いきる覚悟がなかったのかもしれません。これからはまた違った表現で女性や自分自身の感情を表現していきたいと思います。

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ハラダエリコ

ニューヨーク州立ファッション工科大学 イラストレーション科卒
東京在住。NYから帰国後、古美術商での勤務を経て2015年よりイラストレーターとして活動中。
株式会社マヴィ主催「創立16周年記念ワインラベルデザインコンペ」審査員特別賞受賞、株式会社マヴィ創立19,20周年記念オリジナルワインラベルデザイン、2016年「西荻ラバーズフェス」メインビジュアルとなるイラストを担当。
新宿マルイ本館 1B「VEGE STAND 」
西荻窪「ガネーシャガル」「天草製作所」
代官山「Jelly Nail コンセプトショップ」などの壁画を描く。
2019年結婚相談所「パートナーエージェント」WEBサイトのイラストを担当。
企業のパッケージや手提げ、ノベルティなどのデザイン、化粧品会社のイラストなども手掛ける