美味しく楽しく身体を温める。薬膳カレーを作るひと 井村真沙子

料理人になろうと思ったのはなぜ?

小さい頃からうちの母は家族の身体のために「食」や「栄養」にとても気を使ってくれていて、いつも食卓には何品もおかずが並んでいました。その中で私は洋食担当だったんです。カレーやビーフシチューはいつも私が作っていました。

食事には添加物の入ったものが使われることはほとんどなく、カップラーメンも初めて食べたのは友達の家。病気の時には病院に行って診察を受けますが、体に入れる薬は漢方が中心でした。

あとね、私、小さい頃は人参が苦手だったのですが笑、そんな私のために母は毎朝人参をすりおろし、食べやすくアレンジして出してくれました。人参が嫌いでもとても美味しく感じられたし、それを食べ始めて肌が綺麗になって。「食べ物」ってすごいな!と実感したんですよね。それで栄養学に興味を持って大学では栄養について学んだんです。

その頃はまだ料理人になろうとは全く思っていなくて。むしろ音楽の世界に夢を抱いていました。運が良かったこともあり、当時は女性ボーカリストのバッグコーラスでライブを回ったりしたことも。
今でも関係者の方々には感謝しています。でもね、そこで、音楽の世界で生きていく方には生まれ持った才能や生まれ育った環境、そして人を惹きつける輝きがあるのだと身に染みて実感したんです。

この経験により、本来の自分が行くべき道に戻ることができました。
私にはこの道しかないと強く心に留めることができたので、辛いこと、苦しいことがあっても歯を食いしばって頑張ることができました。

原点に戻って、料理教室の講師を始めた時に「料理人になって自分のお店を持ちたい」という夢を明確にできたんです。それからいろいろなお店で修行し始め、自分のオリジナルレシピを作り上げるために少なくとも10年はかかるだろうと腹をくくりました。

その頃を振り返ると、ずっとスーパーで変わった調味料や変わった食材を見てテンション上がっで1人で楽しんでいたり、カレーを作っていたなぁ。どこかに遊びに行ったとか記憶がないんです。

薬膳カレーに込めているのはどんな思い?

そうですね、いつもこのカレーを食べて少しでも元気になってくれたらいいな、楽しんで帰ってもらえたらいいなって思っています。「最近なんか調子いいな〜」って感じてくれていたらすごく嬉しい。その気持ちがベースにあって薬膳カレーのレシピも考えてるんです。

薬膳カレーも、生薬はいろいろあるけど、うちは基本「体を温める」ことに注目して生薬や食材も決めています。

オリジナルの薬膳カレーを作ろうとした背景にはもう一つ理由があって。カレーを追求していくと、誰もがインドカレーにハマると思うんですが、、、私も昔インドカレーにはまって、色々なスパイスを研究してレシピを考えていた時期があったんです。

でも、ふと気づいたんです。ここは日本で、みんな「冷えるな〜、身体が冷たいな〜」と言っているぞ、と。インドは暑い国ですから、インドカレーには発汗して身体を冷ます効果があります。それをそのまま日本でやらなくてもいいのではないかと。

私自身、女性特有の病気を経験し、体を温めることの重要性を身にしみて感じていたので、うちで食べたカレーがお客さんの体を温め、元気になるものでありたいと思ったんです。

香食楽では「当帰(とうき)の葉」をメインで使っているんですが、当帰の「根」の部分は昔から生薬として、婦人病や血流の改善に使われてきたものなんです。現在は「当帰の根」は薬事法により料理に使うことはできないので「葉」の部分を使っているんですが、葉っぱにも栄養成分が豊富に含まれており、体を温める料理にはぴったりのものなんです。

他には薬飯として雑穀米を炊いていますが、お米類は「平性」と言って体を温めることも冷やすこともない食材。体を温めるナツメやジャスミンと一緒に炊いて、より温まるように考えているんです。