美味しく楽しく身体を温める。薬膳カレーを作るひと 井村真沙子

中目黒で16年もお店を続けられたポイントはなんだと思いますか?

やっぱり「好き」だから、かな。心が折れなかったのは。
カレーを作ることも好きだけど、食べている時のお客さんの表情や笑顔が好き。ちょっと元気なさそうに見えたお客さんが笑顔になって帰っていくのを見ると頑張ろうって思えちゃうんです。
そんな気持ちでお客さんのことを思っていると、自然と常連さんになってくれたり、長年通ってくれたり、ありがたいなって思います。

大変なことだって沢山あるんですよ。オープン当初、薬膳カレーなんて怪しいお店なんじゃないかと思われていましたから笑。今では健康に気遣う方が多くなってきましたが、当時は逆に反発をかう要素でもありました。でも自分の全てを注いで乗り越えてきました。
飲食店って、お客さんからは見えない部分の努力もたくさんあって、うちは特に仕込みにすごく時間がかかるんです。最初はお店に寝泊まりする勢いで仕込みをして、営業していました。

でもそれでは長く続けられないので、仕込みの仕方も改良して、だんだんと要領も良くなってきましたが、それでもパパッと出来上がるようなものではなく、出来上がるのに時間がかかる料理なんです。

それは価格にも反映してしまうので、普通のカレーに比べたら価格は高い方。だから昔は「高い、高い」ってよく言われましたけど、最近はみなさん「食」への意識が高まっているので、身体に優しい良質な素材を使ったものに対して「高い」と言われることはなくなりましたね。16年でお客さんの雰囲気も随分変わり、最近は若い女性も本当に増えたなって思います。

長年続ることで感じられるものがありますか?

そうですね。見える景色が変わったことをすごく実感しています。続けられたことそのものが自信になり、自分の強さになっていますし、周りの人たちが「香食楽」を見る目も変わったなと思います。
オープン当初、商店街の端から端まで挨拶して回ったんです。でも10年を越えてようやく認められたというか、受け入れられたというか。もちろんまだまだですけど。お店の評価や評判って結局周りが決めるものですよね。昔から商店街の方々には温かく見守っていただきましたが、もっと上の感覚があるんだなって感じたんです。これは続けて来なかったら感じられない感覚だと思う。

この16年の経験は本当に貴重。続けてきたからこそ分かること、見えることがたくさんあって、それはお金を払っても得られないものだから、これからも大事にしていきたいなって思うんです。

カレーを作り続けて飽きることはありませんか?

ないですね〜。今でも自分のカレーを食べるたびに「美味しいな」って思います笑。飽きないのでほぼ毎日食べています。人体実験の一環です笑。

時代や経験に沿って少しずつ味も進化していますから。基本的なベースは同じですが、オープン当初のレシピと今のものは違うし、仕事に余裕ができたら新しいメニューも作っているからかな。

お店も、レシピも自分のお店にあったオリジナルのやり方でないと続けるのは難しい。いくら成功しているお店をそのまま真似しても、自分のお店には当てはまらないんですよ。

逆に万が一真似されたとしたら、それは嬉しいです笑。認められたことと同じですから。うちと相手は「別物」だから、似てても真似されてても、自分ができる限り「やった」という自信があるので気持ちは揺らがないんですよ。

コロナ禍では大変な時期もありましたが、香食楽には地方からも食べにきてくださるお客さまも多いので、これからの時代の為に「お取り寄せ」もできるようにして、移動ができなくてもこの味を届けられるように進化していきたいなと思っています。

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井村真沙子

「香食楽」代表 / シェフ
岐阜県出身。
愛知県椙山女学園大学家政学部食物学科卒業(現 生活科学部)
国立北京中医薬大学日本校中医薬膳専科卒業
★国際中医薬膳師★栄養士★ジュニア野菜ソムリエ★雑穀エキスパート★カレーマイスター
http://www.ka-ku-ra.com/