美味しく楽しく身体を温める。薬膳カレーを作るひと 井村真沙子

中目黒にある一軒の薬膳カレー屋さん「香食楽/kakura」。16年前にオープンして以来、薬膳カレーを一筋に作り続けてきた井村さんは、薬膳料理やマクロビが一般的になる前から「食と体調」の関係性に着目し、美味しくて健康的なレシピを追求してきた女性。
カレーを食べてくれた人が「なんか最近カラダの調子がいいな〜」なんて思ってくれたら最高!そんな思いでカレーを作り続ける井村さんへインタビューです。

薬膳カレーってどんなカレー?

生薬とスパイス、ハーブを国際薬膳師である私が独自に調合し、五臓を基準とした中医学理論に基づき不足したパワーを補うカレーのことです。

かくらカレー、黒カレー、ベジカレー、季節のカレーの4種のカレーとやラムハンバーグなどを出しているんですよ。料理に使用できる生薬のみを使い、小麦粉や化学調味料は使っていません。

かくらカレーは「脾(胃)」を補う生薬を使用して消化器系に良いもので仕上げました。脾は「後天の本」と言われていて、簡単にいうと日々の食生活で変えられるということです。新陳代謝を活発にして、バランスを整え、カラダの中の『元気になる力』を引き出してくれます。

黒カレーはかくらカレーにブラックパワーをプラスしたもの。「腎」を補う生薬を使用して生殖器全般に良いですね。腎は「先天の本」と言われ、産まれた時点で親から受けたもので五臓の中でも重要です。健康の源として重要な役割をする腎を日々補うために黒カレーをおすすめしています。

kakura

そのほか、カレーによって使う素材や生薬を変えているので、味の好みだけでなく、体調によって選んでもらえたら。自分にはどのカレーがいいか、お店で直接聞いてもらっても大丈夫ですよ。

今でこそ、薬膳カレーは一般的になりつつあって、食べられるお店も増えていますが、私がこのお店を始めた当時は「薬膳カレー」というものは都内でも一軒ほどではなかったんじゃないかな、と思います。

薬膳カレーを作ろうと思ったきっかけは?

25歳の時に料理人になることを決め、いつか自分のお店を開こうと思っていました。そしてお店をするなら、小さなお店で、一人でできて、いろんな栄養を一皿に盛り込める「カレー」がいいな、と。(今のお店は予想以上に大きくなってしまいましたが)

私が料理人を目指した当時は、10代の頃から料理人を目指す方がほとんどで、25歳になって料理人を目指す人なんて稀でしたから、料理の世界を甘く見てるんじゃないかと思われたり、厳しく当たられることも多々ありました。

それでもめげることなく自分の夢を追い続け、日々の仕事を終えてから寝る間も惜しんで自分のオリジナルレシピの研究していました。そんな生活が長く続き、遂には体を壊してしまったんですよね。生理も止まってしまって。

最初は病院に通って治療をしていたんですが、治療自体が体に痛みを感じる時もあり、しんどいなあと思っていました。そんなある日、フラフラと街を歩いていたら漢方屋さんが目にとまったんです。

私の実家は岐阜にあるんですが、富山に近いこともあって漢方薬局が多く、私が幼い頃から母は西洋医学と東洋医学をうまく取り入れていたので漢方は身近な存在でした。でも、一人で暮らすようになってからはすっかりその存在を忘れていましたんですよね。

そんな自分の育った環境のことを思い出しながら、吸い込まれるようにその薬局に入りました。そこで処方をしてもらった漢方を飲み続けて体調が良くなっていったんです。

「これはいい!料理に使いたい!」と、生薬をレシピに入れようと考えました。薬局のおじいさん(仙人みたいな笑)にアドバイスをもらおうと相談に行ったんですが、最初は断られたんです。「料理に入れても美味しくはならないよ、やめた方がいい」と。でも諦めきれなくて、何度も何度も通いました。根負けしたおじいさんが、少しづつ色々と教えてくれるようになったんです。

確かに生薬をそのまま料理の具材として使うと苦すぎて美味しくはないんです。でも、「出汁」としてならその苦さが味に深みを与え、スパイス的な役割になるんじゃないかと思い、試行錯誤を重ねてようやく初期の薬膳カレーのレシピができたんです。

それから自分でもちゃんと学校に通って薬膳を本格的に学び、国際中医薬膳師の資格を取りました。