私にとって居心地の良い空間作り。ポタジェ式農園「さなえヒルズ」主宰 中村可奈

武蔵野市の閑静な住宅地の一角に、中村さんの農園がある。道路から面した小さな農園の入り口を少し進むと、急に視界が広がる。そこには果樹や野菜など、たくさんの種類の作物がランダムに植えられた可愛らしい農園「さなえヒルズ」があった。武蔵野市では初めての農業女子として、型にとらわれず、自分の感覚を大切に農業を楽しんでいる中村さんにお話を聞いた。

武蔵野市の住宅地にある小さな農園

ーここが中村さんの農園なんですね。とても素敵です!畑というより庭園みたいな雰囲気ですね。ヨーロッパにあるオーガニック栽培をしている畑のような雰囲気も感じます。

そうなんです。畝がいくつも走っているような、普通の広い畑とは雰囲気が違いますよね。
ここは、果樹があるお陰で日陰も多いですし、いろんな種類の野菜やハーブを少しづつ寄せあうように植えているんです。フランスのポタジェ(家庭菜園)のように、作物を収穫しながらも、私自身が居心地の良い空間を作りたいなと思うようになって、農地内のレイアウトなど工夫して作ってきました。

ここではどんな農作物を育てているんですか?

約600平米程の土地に、ブルーベリーやレモン、ミカンなどの果樹があり、野菜やハーブを育てています。今育てている野菜はトマトやオクラ、ルッコラ、きゅうりなど夏野菜が盛りです。ブルーベリーもちょうど収穫を迎えています。

トマトは特に好きなので、今はいろんな種類のトマトを植えて違いを楽しんだり、春は自分の観賞用にとヒマワリのタネをたくさん蒔いておきました。
ここは、私一人で運営をしているので、好きなものを好きなだけ自由に植えています。

今年はヒマワリがたくさん咲いてくれて、畑に来るのが一層楽しみになりました。他にも、最近は藍染めができる「蓼藍」も育てていて、これから染織もやってみたいなと思っているんですよ。

武蔵野初の農業女子

武蔵野市では初めての農業女子と取り上げられたそうですね。

そうなんです。農業新聞や武蔵野市の広報誌に取り上げていただいて。
2018年に就農し、ちょうど3年が経ちました。JAが用意している新規就農者向けの「フレッシュ&Uターンセミナー」というのがあって、それを利用しています。そこで農業について勉強をしているんです。
ここ武蔵野市は、市長も武蔵野初の女性市長なんです。子育てをしながらも、忙しい市政の仕事をこなしている方で、品評会などで同席する時には気さくに声をかけてくれるんです。そんな姿にいつも元気をもらっています。

有機栽培をしているとのことですが、大変ですか?

そうですね、除草剤や化学肥料は使っていないので、すぐに雑草が生えてくるのは大変ですね!特に夏は少しでも放っておいたらすぐに生い茂ってしまうので。肥料は米ぬかなどの自然な素材で土に栄養を与えたりと、何かと手間はかかりますが、自分のペースで続けられるので、大変ですけど、結構楽しめているんです。

私の場合、無農薬に強くこだわって始めた訳ではないのですが、有機栽培は自分のスタイルには合っていると思っています。

農業のことを何も知らないまま始めたので、最初、肥料に関する知識は全くなかったんです。化学肥料を使用するには知識が必要な事を知って、農業を始める時、肥料や農薬についてどうしようか考えました。

これから自分一人で農薬や化学肥料について勉強するよりは、多少手間がかかっても無農薬での育て方を学んだ方が安心でしたし、広大な土地でやる訳ではないので、マイペースな自分には無農薬栽培の方がやりやすかったんですね。
代々農家を続けていたり、収穫量が多い農家さんには敵わないですから、こういうところで差別化できたら良いなとも思います

なぜ農業を始めようと思ったのですか?

うちは祖父の代から武蔵野市で農家をしているんです。でも、もともと農家を継ぐつもりは全くなかったんですよ。
数年前、父が病気で動けなくなって一年くらい経った時でしょうか、市役所から「農地が荒れていますよ」と注意がありまして。他にやる人がいなかったので、最初は渋々手入れをし始めたんです。

父が亡くなった時、農地を手放すか、農家を続けるか、どちらかに決めて市に意思表示をしなければならなくなりました。この土地は実家の一部で、私が生まれ育った場所なんです。思い出もありますし、いつか家族が増えた時には「ここが実家だったんだよ」と見せてあげたい。手放すのはとても寂しいなと思ったんです。
もともと農家の娘ですし、小さい時から畑で遊び、土いじりや泥だらけになることには慣れていたので、農業をすることに対して重く受け止めていませんでした。ただ、父から農業について教わった事は全くないので、実際はゼロからのスタートでしたね。